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ネイチャーポジティブ実践【第2回】: 自然共生サイトの環境調査で見えてくるもの。プロの目と専用機材で探る「ただの空き地」の真の姿

※本文中の下線付き用語に表示されるアイコンは、関連するFAQページへのリンクです(別ウィンドウで開きます)。

ニホンアカガエル(成体)の確認場所(2025年7月)

谷津田¹ に隣接する樹林です。ニホンアカガエルは、繁殖期(1~3月頃)以外はこのような樹林内の落葉の下や倒木の下など、湿度が高い場所に潜んでいます。
¹ 谷津田(やつだ):台地または丘陵地が浸食されて形成された谷底低地(谷津・谷戸)に立地する水田です。周囲の斜面林や湧水地、水路などと一体となって連続的な環境勾配を形成し、多様な動植物の生息・生育地として機能する重要な二次的自然です。

「厄介な空き地」の真価を探る

ただ闇雲に歩いても、自然は見えない

前回のコラム(技術コラム#004-01:ネイチャーポジティブ実践【第1回】: 未管理地を自然共生サイトへ。企業が始める生態系調査)では、長年手付かずだった草地と樹林からなる約7ヘクタールの自社所有地での自然共生サイトの登録に向けて取組みを開始したお話しをしました。

厄介な空き地に見えたこの場所には、果たしてどんな命が息づいているのか。

今回からは、当社の専門スタッフが1年間かけて行った現地調査の進め方を、具体的にご紹介します。

調査場所(2025年7月)

草地に隣接する広葉樹林(エリア区分:①草地(敷地内)③広葉樹林(敷地内))。

生物多様性調査の基本は“エリア区分”から

広大な敷地を効率よく調べるための「エリア区分」の考え方(敷地内外の5区分)

広大な敷地を調査する際、ただ闇雲に歩き回るだけでは生き物の全貌は掴めません。最初の重要なステップは、植生や環境に応じてエリアを区分し、戦略を立てることです。敷地の内外を合わせ、次の5エリアを設定しました。

  • ① 草地(敷地内)
  • ② 植栽地(敷地内)
  • ③ 広葉樹林(敷地内)
  • ④ 周辺樹林地(敷地外)
  • ⑤ 周辺谷津田(谷状の地形にある田んぼ・敷地外)

この「エリア区分」は、早速思わぬ発見をもたらしました。40年位前に整備された「②植栽地」を植物調査チームが調査したところ、環境省レッドリスト(環境省 | レッドリスト・レッドデータブック)で絶滅危惧II類(VU)に指定される「キンラン」が多数群生しているのを発見しました。
ただの荒れ地だと思っていた場所に、確かな自然の価値を発見した瞬間でした。

キンランの生育場所(2025年4月)

確認場所は、造成地にブナ科のマテバシイやアラカシが植栽された場所です。造成から約40年が経過し、これらブナ科樹木の根が発達したことで、キンランが生育しやすい環境が形成されたと考えられます。

開花したキンラン(開花期:4~5月頃)

キンランは地中にいるキノコ菌(菌根菌)が必要であり、これらの菌はブナ科樹木の根と共生して生きています。確認場所では、ブナ科樹木の根が発達し、それに伴ってキンランの生育を支えるキノコの菌糸ネットワークが土壌中に広がり、キンランが生育できる環境を形成していると考えられます。林内では30株以上のキンランが確認されました。

専門家の調査手法から見えてきた生態系の「繋がり」

ガサガサという音の正体と、見えない気配を追うカメラ

調査を進める中、さらに意外な報告がチーム内に入りました。
「植栽地の木々の間を移動する動物がいた!」というのです。鳥類調査を担当していた技術者が、ふとした「ガサガサ」という音の気配を見逃さず、樹上を素早く移動する「ニホンリス」の姿を捉え、運よく写真に収めました。
鳥を探す目と耳が哺乳類の気配を察知し、チーム内で即座に情報が共有される。これも、多分野の専門家が連携して動く自前調査ならではの強みです。
しかし、警戒心の強い哺乳類は、人が歩く日中の調査だけでは全貌を把握できません。そこで哺乳類の調査では、彼らの通り道になりそうな樹林内の3か所に「センサーカメラ」を設置しました。
春から冬まで1年間、定期的に電池を交換しながら無人の森を監視し続けました。
その結果、カメラは何度もニホンリスの姿を捉え、この森が彼らの生息地であることが裏づけられました。

センサーカメラ設置状況

動物がよく通る場所では、落葉や下草が踏まれて小さな道(獣道)ができます。調査では、そのような場所にセンサーカメラを設置し、動物の移動経路を考慮して角度を調整します。

植栽地で確認したニホンリス

体長16~22cmほどの樹上性げっ歯類。長い尾でバランスを保ちながら、植栽木の枝を伝って移動していました。

水域がない森にカエルがいる理由

もう一つ、この森が持つ「繋がり」を象徴する生き物がいました。樹林内で確認された「ニホンアカガエル」の成体です。
実は、当社の所有地内にはカエルが産卵できるようなまとまった水域はほとんどありません。では、彼らはどこから来たのでしょうか?
その答えは、調査エリアに含めていた「⑤周辺谷津田」にありました。彼らは敷地外の水田や水路で産卵・成長し、季節が移り変わると当社の樹林へと移動してきていました。
自社の土地の自然環境は単独で存在するのではなく、周辺環境とのネットワーク(連続性)の中で機能していることを、この小さなカエルが物語っています。

樹林内で確認したニホンアカガエル(成体)

林床の湿った場所に潜み、地表で活動する昆虫やクモ類、ミミズなどを食べます。

昼と夜、匂いと光で誘い出す昆虫調査

昆虫調査でも、目視確認だけでなくプロならではの「罠(トラップ)」を駆使しました。
オサムシなど地表を歩く昆虫を対象としたベイトトラップ(誘引餌を入れた落とし穴式の罠)では、なるべく多くの種類を誘い出すため、肉だけでなく「乳酸飲料+氷酢酸」といった特製ブレンドも用意してエリアごとに設置しました。
さらに夜間には、森に白い布を張り、ブラックライトや白色灯を当てて夜行性のガ類や甲虫類を誘い出すライトトラップも実施しました。
昼間の顔とは全く違う、夜の森を支える豊かな昆虫相を記録していきました。

ベイトトラップ設置状況

餌を入れたプラスチックカップを地中に設置し、地上徘徊性の昆虫を匂いで誘引して採集します。誘引餌には、肉(左)と乳酸菌飲料(右)を使用しています。

ライトトラップ設置状況

日没後の数時間、光に誘引される昆虫を採集します。夜間調査により、昼間には確認しにくい昆虫類を含め、多様な生物の生息状況を把握できます。

この記事の執筆者

菊原久美

菊原 久美

関東環境技術センター

1993年入社。主に自然環境調査や環境影響評価業務に従事。現地調査では動物分野を担当し、特に昆虫や魚類調査を得意としています。趣味は鳥の羽根集め。調査中で見つけると、ちょっと嬉しくなります。最近の目標は、いつまでも元気に現場で活動できる技術者でいること。そのために、日々、体力と気力の維持に努めています。

次回予告

技術コラム #004-03

ネイチャーポジティブ実践【第3回】: 調査結果が明かす生物多様性と、プロの「眼力」

こうして、プロの目と多彩な機材を駆使して集めた1年間の調査データ。次回は、いよいよその「結果」に迫ります。センサーカメラで撮影された哺乳類、自社の緑地に飛来していたオオタカなどの猛禽類、多様な鳥類や昆虫。そして素人目には見逃されてしまう「サツマヒメカマキリ」などを正確に見抜く、専門家の「同定(種を見分ける作業)」の裏側をお届けします。

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