LC-MS/MSを用いたアミン類の一斉分析法

この記事の執筆者

奥田 優
環境事業本部 本部環境技術センター
2014年入社。環境測定分析士・作業環境測定士・臭気判定士として、環境保全と職場の安全管理に関わる業務に取り組んでいます。趣味は読書と釣りで、得た知識や気付きを日々の業務にも活かしています。業務を通じて、少しでも魚が増えるような環境づくりに貢献できたら嬉しいです。

概要
LC-MS/MS(液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計)を用いてアミン類の一斉分析方法を確立しました。この分析方法により、現在37物質のアミン分析が出来るようになっています。また、今まで分析した事の無いアミンを分析する場合にも、この分析方法を用いて分析の可否を迅速に判断出来るようになりました。
技術の詳細
技術の背景と目的
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。この宣言を受けて、国内では重電メーカー、エンジニアリング会社や各種プラントメーカー等が中心となり、CO₂分離回収技術の社会実装に向けた開発が加速しています。
CO₂分離回収技術の開発に伴って、回収装置の性能確認や環境監視の観点から、主にアミン類を用いたCO₂吸収液の分析や大気に排出されるアミン類のモニタリングの必要性が高まってきています。
しかし、アミン類は種類も多く、微量分析が困難であるため、分析方法は確立されていませんでした。そこで、LC-MS/MSを用いて、特定のアミン類の質量を測定することで、微量分析が可能な分析方法の確立を目指しました。
技術の原理と方法
アミン類の微量分析を行う際に、アミンが様々なものに吸着することが問題になると予測しました。分析機器への吸着が起きると再現性が悪化し、分離カラムに吸着するとピーク形状の悪化により定量が出来なくなるからです。そのため、分析の際に試料に接触する箇所と時間を最小限にするのが、良好な分析結果に繋がると考えました。そこで、CO₂吸収液に水が含まれている可能性があること、排ガス中のアミン類を捕集する溶媒に水が使われることを踏まえ、 液体中の微量分析に広く利用されているLC-MS/MSを用いて検討を始めました。
LCはWaters製 Acquity I-Class、MS/MSはWaters製 Xevo TQを使用して、ESI+ positiveのイオン化法にて測定しました。測定結果のクロマトグラムの一例が〈図-1〉
になります。全て異なるアミンですが、ピーク形状と分離は良好で、問題なく測定出来ました。
続いて、様々なアミンで検量線を作成し、装置検出下限値(IDL)及び装置定量下限値(IQL)を測定して分析精度を確認しました。検量線の一例が〈図-2〉
、IDLとIQLの一例が〈表-1〉
になります。検量線は相関係数0.999以上で直線性があり、装置の繰り返し分析の測定値も良好で、十分に精度のある結果となりました。



技術の特徴と利点
LC-MS/MSによる一斉分析法の特徴は、試料をそのまま機器に導入することで、一度に複数のアミン類を分析出来ることです。これまで広く使用されているGC-MS法では誘導体化などの複雑な前処理や、妨害成分となる夾雑物の除去を行わないと精度のある分析が出来ませんでした。しかし、 LC-MS/MSを使用したこの方法では、1回25分程度で、10物質以上のアミンを同時に分析出来るため、測定結果を短納期で報告することが出来ます。
また、この方法は特定のアミンに特化した分析方法ではなく、様々なアミン類の分析に用いることが出来ます。そのため、現在対応していないアミンの分析においても、検討時間を短縮して分析が可能です。そのため、分析方法の確立で終わらず、新たなアミン類分析へ展開出来るのが利点です。

結果と考察
当初は数物質のアミンしか分析出来ませんでしたが、 LC-MS/MSによる一斉分析法の確立と、その後の分析検討により、現在(2025年8月時点)では定量分析が可能な物質数は37物質となっています。また、様々なアミン類を分析検討した結果、物質によって測定可能な濃度に大きな違いがあったり、アミン濃度が1%を超えるような高濃度アミン溶液の分析の難しさなどが分かってきました。
今後は、より幅広い要望に対応出来るよう、固相抽出などの前処理と組み合わせた分析方法の確立や、特定の物質に絞った高感度な分析の実現を目指しています。
まとめ
様々なアミン類を対象に、1検体あたり約25分で高精度に測定可能な一斉分析法を確立しました。
現在、以下の一覧に記載されている37種類のアミン類について、定量分析が可能です。
アミン類の一斉分析法まとめ
測定可能な物質数 | 37 物質 |
分析時間 | 1検体 約25分 |
精度 | 検量線の相関係数0.999以上、繰り返し測定結果も良好 |
応用性 | 多様なアミン類に対応可能 |
一斉分析で測定可能な物質(2025年8月現在)
synonym | 物質名 |
---|---|
MEA | モノエタノールアミン |
MDEA | メチルジエタノールアミン |
AMP | 2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール |
PZ | ピペラジン |
HEI | 1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリジン-2-オン |
DNPZ | 1,4-ジニトロソピペラジン |
DMPZ | 1,4-ジメチルピペラジン |
EPZ | 1-エチルピペラジン |
COPZ | 1-ピペラジンカルボアルデヒド |
MPZ | 1-メチルピペラジン |
HEEDA | 2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール |
MAE | 2-(メチルアミノ)エタノール |
― | 2-オキサゾリドン |
DMAE | 2-ジメチルアミノエタノール |
FMPZ | 4-メチル-1-ピペラジンカルボアルデヒド |
HEMA | N-(2-ヒドロキシエチル)-N-メチルアセトアミド |
HEA | N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド |
HES | N-(2-ヒドロキシエチル)スクシンイミド |
HEF | N-(2-ヒドロキシエチル)ホルムアミド |
HEL | N-(2-ヒドロキシエチル)ラクトアミド |
CODEA | N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ホルムアミド |
NEIPA | N-ニトロソエチルイソプロピルアミン |
NDELA | N-ニトロソジエタノールアミン |
MNPZ | N-ニトロソピペラジン |
EDA | エチレンジアミン |
DEA | ジエタノールアミン |
― | ジエチルアミン |
TEA | トリエチルアミン |
Bicine | ビシン |
MPL | モルホリン |
NDMA | N-ニトロソジメチルアミン |
NDEA | N-ニトロソジエチルアミン |
NMBA | N-ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸 |
NMPA | N-ニトロソメチルフェニルアミン |
NDIPA | N-ニトロソジイソプロピルアミン |
NDBA | N-ニトロソジブチルアミン |
NMOR | N-ニトロソモルホリン |
受注実績
- CO₂吸収液中に含まれるアミン類の定性と定量分析を受注しました
- LC-QTOF/MS(液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計)の分析結果と組み合わせることで、アミン吸収液中の副生成物の分析に対応しました
- 模擬排ガス中のアミン類の分析を受注しました
- 詳しくは、実績一覧ページ CCUS・カーボンリサイクルをご覧ください
応用分野とその効果
CO₂吸収液の副生成物の濃度を測定することにより、吸収液の劣化状況を把握するための指標の一つとなります。また、排ガスを捕集し分析することで、大気中へのアミン類の放出量を確認することができます。